猫とフランス語の話

仕事中に、夜に、ふとネコチャンを抱きしめていやがられたい!という気持ちがよくわきます。短毛の子がいい。あんまり鳴かない子なほうがうれしい。いーやーという風に手を突っ張ってでも触るのだけは許して欲しい。ネコチャンはどうも本当に参ってる時とかの触らせてくれるさじ加減がわかっているかのような時があってやはり私の中では不思議な生き物です。

これがもっと参ってくると大きなイヌの首に手を回して撫でて回りたくなります。喜んで欲しい。生活していて紙の感触しか手に触れないので、温かいものを触りたいのかもしれない……

昔留学していたお家に黒い猫の青年が一緒に住んでいて、私は彼にいつも日本語で話しかけていたのですが、やっぱり彼は日本語を理解していたと思います。家族はフランス語で話すけれども。半開きのドアから自室に入って来て、椅子の上の私の膝の上に乗って一緒に鏡の中を見るウカシちゃん。

「うかちゃんお化粧してるとこだからみないでー」

うかちゃん、と呼ばれた黒猫は私の胸に前足をかけつつ小さく鳴いてそれで降りるのだった。そして足元で仰向けになってゴロゴロする、これが私の通学前の楽しみで、あの子は人の邪魔をあんまりしない良い子だった。鳴くのはお返事の時とベランダのドアを開けてもらって、ベランダに爪を研ぎに行きたいときだけで、その時ですら人に気付かれるまでは鳴かない。

私が左手を低く放り出している*1と決まってその手の下に潜り込んで自分で動いて撫でられようとする。宿題に煮詰まった時はよくそのまま抱き上げてうかちゃんに答えを聞いた。彼は一度も紙面を見ようとはしなかった、詰まる所ネコは数学が苦手。

私が手を揃えているとその上に手を乗せてくるので、よく肉球をさわらせてくれよとお願いをしていた。もちろん黒猫サイドのアンサーは「non.」のそれで、触ろうとすると柔らかな指の間から爪を少しずつ見せて来た。私はよくこのお願いをしたけれど、最後の日しかお願いは叶えられていない。

家を出る日に、今日でもう最後だからとお願いをしたら彼はその日だけ爪を剥かなかった。私にされるがままに柔らかな肉球をさわらせてくれて、最後にそうやって握手をして別れたのだった。フランスの猫は人間と違ってビズをしてはくれない。代わりに家を出るときに珍しく鳴いた。あの聡明な子と暮らした経験から私はどうも参ってくるとネコに甘えたくなるのかもしれない。ヨーグルトの蓋を舐めたがるネコ、フランス語と日本語のどっちもを理解するネコ。

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そして一緒に日本の家族とのスカイプにでたがるネコ。肉球は思ったよりもぷよぷよしていた。

*1:大抵はローテーブルで宿題をしている時で、右利きなので左手はコーヒーを持つかカラだった