読了めも:豊島ミホ『檸檬のころ』

豊島ミホ檸檬のころ』読了。初回だけど参っている時の感想なので、もうすこし元気になってから読み返したら別の感想があるように思えるのでメモしておく。
ふつうにネタバレがおおいので下げる。

 

 

ざらっと読後に検索したけど多分舞台は筆者母校だろうし、さまざまな登場人物にエッセンスなりかつての希望が割り振られていたりするのだろうな。映画のキャスティングは異常に腑に落ちて、絶対に見たくない、と思っている。
書き出しからして私にとっては全く異質な感じで、私は前評判*1ほどではないかもしれないという感想を手にしていた。異質な質感から、読み進めるにつれてなくはないな…というか、クラスメイトの一人として人間模様をながめているかのような気持ちになるのはすごい。特に【ルパンとレモン】らへんから。
短編が集まってきているけれど、読んでいるなかで初めて親近感を感じたのは【金子商店の夏】の早稲田のくだりだ。中学から一貫できているような、に高校入学時の一瞬をふと思い出したし、そうか、作中時代ではまだ早実小はなかったか、そこあがりで早稲田法に行っているような学年はいなかったか、と初めて制服を作ったときの新宿伊勢丹のフロアを思い出していた。これから仕立てるスカートのサンプルを履きながら、目の前の臙脂が効いた小学生の制服を眺めていたあのとき。早稲田実業は正しく言えば付属ではないけれど。
そして示されるあんまりきらきらしてない大人の例。彼が北高出身で、学校のそばの商店にいるというのが対比としてはっきりしすぎていてよかった。なんだかんだ、その後合格しても彼は地元に戻るのかもしれない。
ただ、私にとってわかるのは本章はきちんと現実と地続きであるという提示であるということで、高校時代の希望の終わりと現実を生きている金子氏、具体的な地名、まさにここまでが世界のご紹介であるな、と読んでいる。
前後したけれど【タンポポのわたげみたいだね】は明らかに世界の紹介だし、実際のレベル感と世代感を示していたように思う。ほぼ女子高生の友情の再確認*2と共に後への伏線がたくさん張りめぐらされていたことに読後気づく。自意識とみられ方の話だとか、ひとりになってしまったかのような孤独だとか、たぶん読み返せばここらへんからわかる要素はあるのだ。頭の異質感にとらわれすぎていたようにも思う。
読み進めるにつれて感想が深まる。【雪の降る町、春に散る花】では似たような逡巡を第三者として観測していた、中学時代のことだし、それは本作よりもずっと距離範囲の狭い対象ではあるが。クラスにもしかしたら私もいるかもしれないな、と一瞬でも思えたのは本作だけで、それでも私はクラスメイトの話を耳に挟みながら汚いなあ……と分不相応にも思いながら勉強をしているか、本を読んでいるのだろう。あのひと絶対にクラスメイトのあの子のことが好きなんだろうなあ、とか秘密裏にふたりで帰宅しているところに鉢合わせて気まずかったなあ、いいなと思った人は多分、初恋にとらわれていてほかのものなんて視界にないことがわかっていて自分は心を閉ざしていただろうな、とか。私のなかでの公立共学校の経験が中学時代だけなので、そこらへんをリファレンスにすこしばかり想像がつく。本作の誰の記憶の中にも残らないで卒業して、誰とも連絡を取らないクラスメイトの、名前のない一人になったかもしれない。
それにしても、最終作だからかもしれないけれど、今まで出てきた人々に様々な色がついて個々人が個別に存在しているのがよかった。下宿生の垢抜けたあの子だったり、藤山君だったり。それぞれに人生が存在しているのがわかってよかった。それにしても中高生の性欲の絡んだ、狭い範囲の人間関係の中の糸のかけあいはやはり苦手っぽい。

多分どれが一番好きかと言われたら【ラブソング】なんだけど、ばらばらな人々が似たような悩みを抱えたりするのが好きです。それでも細かいところはすごいかわいそうな気持になったし、従妹にも善意ばかりではないから彼女の日記を読みたいとすら思った。興味対象が近くて、距離が近くなると好きになってしまう、あるのかもしれないな。きっと掃除当番からずっと、歌詞を認めるまで世界の色づきかたがかわっていたんだろうな。

回顧して思えば、私は高校時代に全然居場所がないと感じていたけれどそれを否定したかったし、保健室だろうが部活だろうか、クラスの音楽の趣味の合う男性だろうが、なんらかのコミュニティを得られている彼女らが苦手に思えて表面的には本作が刺さるのかもしれない。【ラブソング】の白田ですら、クラスから浮くように心がけている、いや同類と思われたくないと思っているのだろうけど、なんだかんだ趣味から役を仰せつかっているし、きちんと居場所があるじゃないの、という感想が深い。

本作の先のことを考えるのは、類例をたくさん見たから得意だ。読みたいとも思わないけれど、こうして物語は一般化していくのかしらんとも思う。金子氏はまだ特殊な例だったかもしれない。
知っている一般的な彼らのそれぞれにきちんとさまざまな過去が存在するのだろうか、と思うと隣人らに対する目も自ずとわずかに優しくならざるを得ない。でも、構成として秋元に収束していったのだけは何となくヒロイン性が高すぎるというか、お前のために世界が存在しているわけではないんだぞ、と感じているのは自分の現況による感想なのかもしれない。それでもほかの女の子たちの結末が見たかったか、と言われると、やはり秋元嬢の締めでよかったのだろうな。

ちょっと間をおいて、近いうちに読み返す。

*1:この本を私に勧めてきた人は、リアリティを示していた

*2:女子高生だけどこんなことはしたことがない、大学生だともっと凄惨なことになるので、正しいのかもしれない